グロー燃料の成分と各成分の働き-1

第4回となる今回は、『グロー燃料の成分と各成分の働き-1』と題してグロー燃料の成分・メタノールの性質・ニトロメタンの性質と役割・潤滑油の種類と役割について説明し ていきます。

グロー燃料の成分は?

■本物の自動車やバイクのエンジンでは、金属と金属が直接擦れ合って運動する摩擦部分、例えばピストンとシリンダー間あるいはクランクシャフトとベアリング間などへ、オイルをポンプで強制的に送り込み摩擦や摩耗を防いでいます。しかし、模型用エンジンは構造が簡単で小型に出来ているため、オイルの供給装置を省き、燃料(メタノールとニトロメタンの混合物)の中へ予めオイルを混合しておいて、燃料の供給と同時に潤滑の必要な摩擦部分へオイルを供給し潤滑する「混合潤滑方式」になっています。

メタノールの性質

■メタノール(別名メチルアルコール)は、無色透明で可燃性があり、揮発性が高く引火し易い液体です。蒸気の重さは空気と殆ど同じなので大気中に拡散して爆発混合物を作りやすいという性質を持っています。そのためメタノールを取り扱う際には「火気厳禁」で厳重な注意を必要とします。
■またメタノールの燃焼範囲は、前回のVol.3 で説明したようにガソリンの燃焼範囲1.4~7.6 vol%に対し6.7~36.5vol%であり、ガソリンと比べて爆発下限値が大きく(濃く)なり上限値が拡大して燃焼範囲も広くなっています。
■このことをエンジンの燃料(空燃比)制御のし易さで考えると、ガソリンの場合には爆発下限値が小さく(薄く)燃焼範囲が狭いことから、燃料消費は少なくて済むが、エンジンのあらゆる運転条件(始動、加速、減速、低速、高速、低負荷、高負荷等)に合わせて、常に「良い混合気」を作ることが難しくなり、非常に精密な燃料制御装置(キャブレターやEFI等)が要求されることになります。
■他方メタノールの場合には、爆発下限値がガソリンよりも大きく(濃く)なり燃焼範囲もかなり拡がっていることから、燃料消費がガソリンよりも増えますが、あらゆる運転条件下で多少の空燃比の変化があっても支障なく運転が出来ることになり、比較的簡単な燃料制御装置(キャブレター)でも良いことになります。このことからメタノールの性質は、構造の簡単なグローエンジンの「主燃料」としてたいへん優れているといえます。

ニトロメタンの性質と役割

■ニトロメタンは、無色透明で、引火点が比較的低い(35℃)液体です。純度が高い場合には、アルカリなどの異物の混入あるいは衝撃や熱が加えられることで爆発する恐れがあり、メタノールとは違った「特別の注意」を必要とする燃料です。但し、グロー燃料の場合はニトロメタンとメタノールやオイルとの混合物になるため「爆発」の危険性は無くなり「引火」の危険性のみになります。
■ニトロメタンの燃焼範囲は、下限値が7.3%でメタノールとほぼ同じですが、上限値は無限大となりメタノールよりも更に範囲が拡がって混合気がどれだけ濃くても燃焼(爆発)するという性質になり、エンジンではやや濃い目の空燃比に調整する事であらゆる運転条件に対応出来ることを示しています。そのためグロー燃料では、メタノールへ適当量のニトロメタンを添加して、エンジン調整の楽な非常に扱い易い優れた燃料とすることが可能になります。
■またニトロメタンは、メタノールよりも空燃比を「濃く」出来るためエンジンへより多くの燃料(熱量)が供給出来ること及びニトロメタンが燃焼する際に酸素の放出が極めて急で燃焼速度が速くなることから、エンジン出力(回転数)の増加が認められています。一般的に、ニトロメタンが無添加の燃料(ストレート燃料と言います)から徐々にニトロメタン量を増やしていくと、40%位までは出力が増加しそれ以上になると増加が目立たなくなる傾向が見られます。
■従って、市販のグロー燃料では、メタノールへニトロメタンを添加することで、エンジンの始動性や低速時の安定燃焼を向上し、安定した出力増加を得ることが出来るため、用途と経済性を考慮してニトロメタンの含有量を変えた商品(通常ニトロメタン量は10~30%程度。ボート用等では更に多い物もある)をラインナップさせています。

潤滑油の種類と役割

■グロー燃料は、主燃料にメタノールを使用しています。そのため本物の自動車等で広く一般に使われている「鉱物油」は、メタノールへ全く溶解しないため使用できません。そこで、古くからメタノールと溶解性において非常に相性の良い「植物油」であるひまし油が使用されています。昭和40年代頃からは、メタノールへ溶解可能なポリエーテル系合成油(以下ポリエーテル油と表記)が主として使われ、現在はその両方が単独または組み合わせて使用されています。

潤滑油の種類 1.鉱物油 2.植物油 3.合成油
■ひまし油は、蓖麻(ヒマ)の種子を絞って得られる黄褐色で粘度の高い液体で、一般的な用途としては、化粧品や医薬品及び潤滑油などに使用されています。グロー燃料へひまし油を入れると、混合して2~3日目あたりから白いフワフワしたゴミのような浮遊物が発生して日増しに増加する傾向があります。そのまま使用すると、この浮遊物がエンジン内でバニッシュ(茶褐色の汚れ)やカーボン(黒い堆積物)の原因となるため、商品化には手間の掛かる濾過作業が必要になります。また、燃焼してマフラーから出た排気ガスは、やや臭いがきつくて目の痛みを伴ったり、排液が模型に付着するとベタベタして拭き取るのが大変面倒になるという使いにくさがあります。
■しかし、こうした欠点がありながらひまし油は、エンジンが高温になっても油膜強度や摩擦特性の点で優れた潤滑性を発揮するため、オーバーヒート傾向の強い「自動車用グロー燃料」に好まれて使用されています。

■ポリエーテル油は、酸化エチレン(EO:エチレンオキサイド)や酸化プロピレン(PO:プロピレンオキサイド)という原料を重合して得られる合成油の総称で、用途に応じて化学構造の異なる各種の合成油が作られており水溶性や油溶性のものがあります。一般的な用途としては、化粧品や界面活性剤(洗剤等)の原料、熱媒体(クーラント等)、ポリウレタン樹脂原料、潤滑油基材などに使用されています。グロー燃料用には、POを原料に作られたポリプロピレングリコール(以下PPGと表記)が主として使用されているようです。
■PPGの性状は、無色で弱い甘味臭があり、吸湿性のある粘い液体でメタノールやニトロメタンへは良く溶けます。グロー燃料に使用するPPGは、分子量が700~2000程度もので種々の粘度グレードのものが使用でき、各模型ジャンルの要求に応じた処方設計が可能になっています。またPPGはひまし油に比べると、低温で粘度が低くてサラッとしているため模型(機体や車体)に排油が付着してもベタつかず、燃焼室内のような高温下ではガス化して分解するため、排気煙やバニッシュ・カーボンが少なくなることから、「空物」と言われる飛行機やヘリ用の燃料に好まれて使用されています。

■エンジンの潤滑油は、ピストンとシリンダー間の「密封作用」、ピストンとシリンダー間あるいはクランクシャフトとベアリング間など運動部分の「摩擦や摩耗の低減」や「衝撃圧力の分散」及びエンジンの「冷却」、「清浄」、「防錆」などの諸作業を同時に行っており、エンジンの性能や耐久性(寿命)に大きな影響を与える大事な役割を持ってます。
■我々が使用する模型用グローエンジンは、空冷で小型しかも非常に高回転で使用されることから、運転中のエンジン各部温度や回転数が常に大きく変化するため、潤滑油の粘度変化や熱劣化・酸化劣化等に対し非常に厳しい条件になります。実際のグロー燃料では、その模型の使われ方(ジャンル毎)に応じた適正なタイプの潤滑剤の選択及び適正な粘度の組み合わせが研究され処方されています。

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