燃料の化学的・物理的性質-2

前回は、『燃料の化学的・物理的性質-1』について解説しました。第3回となる今回は、『燃料の化学的・物理的性質-2』と題して引火点・着火温度(発火点)・空気中燃焼範囲(爆発限界)・相溶性・蒸気密度について説明していきます。

引火点

■燃料などの可燃物質を、規定条件で加熱したとき発生する蒸気と空気との「混合気」へ炎を近づけた場合、瞬間的に引火するときの温度をその物質(燃料)の引火点と言い、この温度が低いほど気化性が高い燃料といえます。
■エンジンでは、引火点が低い燃料ほど僅かな火花で点火が可能となり、始動性や、低温での運転性が良くなります。しかし、本来引火点は、「引火火災の危険性を判断する目安」になっているもので、引火点が低いほど「危険な燃料」となり「取扱いに注意」を必要とします。
■その意味では、ガソリンは引火点がマイナス40℃程度で冬場といえども非常に危険な燃料であり、ガソリンエンジン模型を楽しまれる方は「引火火災に対する厳重な注意」が必要といえます。
■またメタノールの引火点は、プラス11℃でガソリンよりはやや高くなりますが、まだまだ常温よりは低い温度であり「ガソリンと同じ注意」が必要です。くれぐれも、引火点の低い「ガソリン」や「グロー燃料」の取り扱いには注意し、一般家庭の屋内では保管しないよう心がけて下さい。

着火温度(発火点)

■着火温度は、よく引火点と混同される場合がありますが、引火点とは全く別物で、燃料などの可燃物質を規定条件で加熱したとき、「炎や火花を必要とせずに自然に発火する最低の温度」をその燃料の着火温度と言います。
■圧縮着火をするディーゼルエンジンでは、一般的に、この着火温度が低い燃料ほどセタン価(ディーゼル燃料の着火性を示す尺度)が高く、始動性に優れた燃料といえます。ディーゼルエンジンに使用される軽油では、着火温度が低く約250℃になっていますが、メタノールは着火温度が470℃と高いためディーゼルエンジンには適しません。
■また圧縮着火をする模型エンジンにおいても、そのままではメタノールの着火温度が高いため、ピストンの圧縮熱だけでは火が点きません。グローエンジンでは、「メタノールが簡単に燃えやすい」という性質(沸点や引火点が低く揮発性に優れる)を利用。高温に過熱したフィラメントの「僅かな熱源の助け」を与えることで、簡単に火が点き(着火)、爆発、燃焼させています。 ※メタノールは、470℃以上になると自然発火する

空気中燃焼範囲(爆発限界)

■一般家庭で使用する都市ガスやプロパンガスのような可燃性ガスおよびガソリンやメタノールなどの引火性液体の蒸気(これも可燃性ガス)が、空気中で混合して何らかの着火源が与えられると、それを中心にして燃焼波が急激に拡がり、殆ど瞬間的に燃焼が終わってしまいます。これを「爆発」といいますが、このガス爆発が起きるためには、空気中に可燃性ガスが「一定濃度の範囲にあること」が条件となり、濃度が「薄過ぎる場合」や「濃過ぎる場合」には爆発しないことになります。この濃度の最小値及び最大値のことを「爆発下限」及び「爆発上限」と称し、この範囲内にある可燃性ガスと空気との混合物を「爆発性混合ガス」と呼びます。
■従って、一般家庭や工場等で爆発災害を起こさないためには、ガス漏れ(または燃料漏れ)を起こして「爆発性混合ガスを作らない」よう厳重な注意をする必要があります。他方、我々が使用する模型エンジンでは、エンジン調整(キャブレター)の際に、いかに「燃料」と「空気」を上手に混ぜて「爆発性混合ガスを作る」かが、そのエンジンの性能を100%引き出せるポイントになります。エンジン調整の第一歩は、良い混合気(爆発性混合ガス)を作る「腕」と「努力」と言うことになります。
■爆発性混合ガスを容易に作りやすいガソリンの燃焼範囲は 1.4~7.6vol%ですが、メタノールやニトロメタンは更に燃焼範囲の幅が拡がっております。このことは、メタノールやニトロメタンがガソリンに比べて、より広い範囲で「燃焼」出来る事を意味しており、模型エンジンへグロー燃料(メタノール+ニトロメタン)を使用することで、多少の「腕の悪さ」をカバーして貰うことが出来るという事になります。

■相溶性には、燃料が水の中へ溶解する割合を示す「水への溶解度」と、水が燃料の中へ溶解する割合を示す「水の溶解度」の二通りがあります。グロー燃料の諸注意で「メタノールは吸湿し易いので燃料缶の蓋を開けたらすぐに閉めなさい」とよく言われますが、メタノールは「水への溶解度」も「水の溶解度」も、どちらにも無限大に溶ける燃料です。従って、グロー燃料の使用において、一度「開封してしまった燃料」を「取り扱いが悪い状態」で長期間使い続けると、どんどん水分が蓄積されてしまうことになります。また短期の使用においても「蓋を開けたまま放置」するような使い方はくれぐれも避けなくてはなりません。
■また、ニトロメタンの水の溶解度は2.2%で僅かに水が溶け込みますが、ガソリンの場合には約80ppmで殆ど水は溶解しません。もし仮に、この溶解度を超えた量の水が混入した場合は、ニトロメタンまたはガソリンと水とが分離してしまいます。但し、グロー燃料へ水が混入した場合には、分離せずに潤滑油(オイル)と水が混ざり合って「乳化」し白く濁ることがあります。

■蒸気密度とは、空気の密度=1に対する比率を示すもので、空気の重さに対するその可燃物質の蒸気の重さの割合を示しています。従って、燃料などの可燃物質が一般家庭などの屋内で漏れ出したような場合、その蒸気密度が空気とほぼ同じであれば蒸気と空気が混合して「爆発性混合ガス」が部屋中に充満し、空気より重ければ可燃性の蒸気が地面に漂うことになり、何れの場合も「非常に危険な引火・爆発の状況」を作り出します。
■このことを模型エンジンで考えれば、メタノールの場合は、蒸気密度が空気とほぼ同じなので空気とは非常に混合し易く、エンジンにとって「良い混合気」が作れる「良い燃料」といえます。その点、ガソリンやニトロメタンになると蒸気密度が空気よりも重くなるため「良い混合気」を作るための工夫が必要になります。
■実用のガソリンエンジンでは、加速時にアクセルを踏み込んだ際の「燃料遅れ」(ガソリン蒸気が重いためにシリンダー内の混合気が薄くなる)を解消するために「ガソリンの増量補正」を行ったり、混合気の「ガス流動」を改善して、良い混合気を作る(=急速燃焼させる)ために、「燃焼室形状の改良」などを行っています。グローエンジンでは燃料に使用するニトロメタンの燃焼範囲が極めて広いことから、エンジンを予めリッチ(濃い)気味に調整しておくことで対応可能となります。ニトロメタンは、グローエンジンにとって極めて優れた燃焼促進剤といえます。

(C)O.S.ENGINES.Mfg.,Co.Ltd. All Rights Reserved.